YandexGPT (language model) — ヤンデックスGPT
YandexGPTは、ヤンデックス社が開発した大規模言語モデルのファミリーであり、2023年5月に初めて発表された。[1] 内蔵アシスタント「アリサ」、検索エンジン、その他のサービスで使われているほか、クラウドAI基盤Yandex Cloud AI StudioのAPIを通じても利用できる。[2] 2026年6月時点の主力モデルはYandexGPT Pro 5.1、および関連するAlice AI LLMである。[3]
YandexGPTは、社内で「Genesis(ジェネシス)」あるいは「YaLM 2.0」と呼ばれたプロジェクトから生まれた。先行モデルのYaLM-100B(2022年)は、1000億パラメータを持つオープンソースモデル(Apache 2.0、1.7TBのデータで学習)で、「概念実証」として機能したが、YandexGPTは商用利用のために別途開発された。[4]
リリース履歴
| 日付 | リリース | 主な特徴 |
|---|---|---|
| 2022年6月 | YaLM‑100B | 1000億パラメータ、1.7TBのデータ、Apache 2.0。[4] |
| 2023年5月17日 | YandexGPT 1.0 | 「アリサ」への統合。[1] |
| 2023年9月7日 | YandexGPT 2 | 社内評価で初代より67%の場合で回答品質が向上。[5] |
| 2024年3月28日 | YandexGPT 3 Pro | 法人向け(Yandex Cloud)。社内のSide-by-Side評価でYandexGPT 2を67%、ChatGPT-3.5を64%上回る。[6][7] |
| 2024年5月28日 | YandexGPT 3 Lite | YandexGPT 3ベースの軽量版(RC)。6月24日に既定モデルとなる。[8] |
| 2024年10月24日 | YandexGPT 4 Pro / Lite | 32,000トークンのコンテキスト、隠れた推論(скрытые рассуждения、chain-of-thoughtによる学習)。応答速度が前世代比で平均2.5倍。[9] |
| 2025年2月25日 | YandexGPT 5 Pro | function callingの大幅改善、構造化出力(structured output)対応、コンテキスト32k。同日にLite版のpretrainウェイトをオープン公開。[10][8] |
| 2025年3月31日 | YandexGPT 5 Lite | AI StudioでRC提供(32kコンテキスト、OpenAIツール対応)。80億パラメータのpretrain版・instruct版をHugging Faceで公開。[11][8] |
| 2025年8月28日 | YandexGPT Pro 5.1 | 内部評価で5 Proを58%、GPT-4.1を56%上回る。幻覚を約半減(32%→16%)。RC提供。推論モードは非対応。API価格を3分の1に引き下げ。[8][12] |
| 2025年9月24日 | Yandex Cloud AI Studio | 「Yandex Foundation Models」を生成AI・AIエージェント基盤「Yandex Cloud AI Studio」に刷新。[8] |
| 2025年10月 | 「Alice AI」へのリブランド | 消費者向けプロダクトをAlice AIに統合。[13] |
| 2025年11月25日 | Alice AI LLM | AI Studioの基本インスタンスで全ユーザー向けに提供。RAGと自由対話に強く、AIエージェント用途を想定。[8] |
アーキテクチャとトレーニング
- 基本アーキテクチャ: ロシア語に最適化されたトランスフォーマー。
- YandexGPT 5 Pro: 公開モデルの重みとヤンデックス独自の学習サイクルを組み合わせて構築された。ベースには中国アリババのQwen-2.5が用いられたと報じられており、これにより実験期間を最大20分の1に短縮できたとされる。[14][15]
- YandexGPT 5 Lite: 他モデルの重みを使わず、ランダムな初期値から学習された。事前学習は2段階で、第1段階で主にロシア語・英語のテキスト約15兆トークン(コンテキスト長8,000トークンまで)、第2段階「Powerup」で高品質データ約3,200億トークンを用い、NTK-aware scalingでコンテキストを32,000トークンへ拡張した。[14]
トークナイザーはロシア語に最適化されており、ロシア語テキストではYandexGPT 5 Proの32,000トークンがQwen-2.5-32B-baseの約48,000トークンに相当する。アライメント(指示適応)はSFTとRLHFからなる。[14]
コンテキストと制限
- モデルのコンテキスト長は、YandexGPT 5/5.1/5 Liteが32,000トークン(32,768)、Alice AI LLMが64,000トークン(65,536)。[3]
- テキスト生成では、AI Playgroundでの1応答あたりの最大トークン数が1,000に制限される。テキスト埋め込みの入力は最大2,048トークン。[16]
現行モデル (2026年6月時点)
| モデル | コンテキスト | API | 備考 |
|---|---|---|---|
| Alice AI LLM | 64,000 | テキスト生成・OpenAI互換 | AI Studioの現行フラッグシップ系。[3] |
| Alice AI LLM Flash | 64,000 | OpenAI互換 | 高速版。[3] |
| YandexGPT Pro 5.1 | 32,000 | テキスト生成・OpenAI互換 | 2025年8月にRCで登場。[3] |
| YandexGPT Pro 5 | 32,000 | テキスト生成・OpenAI互換 | 第5世代Pro。[3] |
| YandexGPT Lite 5 | 32,000 | テキスト生成・OpenAI互換 | 軽量版。[3] |
| Fine-tuned YandexGPT Lite | 32,000 | テキスト生成・OpenAI互換 | ファインチューニング版。[3] |
このほか、80億パラメータのYandexGPT 5 Lite(pretrain版・instruct版)がHugging Faceでオープン公開されている。初期のYaLM-100B(Apache 2.0)もオープンモデルとして公開されているが、AI Studioの現行ラインナップには含まれない。[11][4]
Yandex Cloud AI Studio
法人・開発者向けには、YandexGPTはヤンデックスのクラウドAI基盤「Yandex Cloud AI Studio」(2025年9月に「Yandex Foundation Models」から改称)を通じて提供される。テキスト生成はOpenAI互換のAPI(Completions・Responses API)に加え、独自のREST・gRPC API、Yandex Cloud ML SDK、ブラウザ上のAI Playgroundから利用できる。モデルはURI(例: gpt://<folder_ID>/yandexgpt-5.1)で指定し、呼び出しは同期・非同期・バッチの3モードに対応する。[3][8]
第5世代では関数呼び出し(function calling)が大きく改善され、構造化出力(structured output、JSON/スキーマ指定)にも対応した。プラットフォームはこのほか、テキスト埋め込みモデル、ベクトル・ハイブリッド検索インデックス、ナレッジベースを参照するRAG、ノーコードのAIエージェント構築(Agent Atelier)、MCP Hub、Pythonコードを実行するCode Interpreterなどを備える。YandexGPTのほかQwen3、DeepSeek、gpt-oss(OpenAI OSS)といったオープンモデルも利用できる。なお、旧来のAI Assistant APIは2026年1月に提供終了し、現在はResponses APIなどが推奨される。[8][3]
ベンチマーク
以下はいずれもヤンデックスによる社内評価(盲検のside-by-side比較)であり、独立した第三者による評価ではない。
- YandexGPT 5 Proは、社内のside-by-side評価でYandexGPT 4 Proを67%の場合で上回り、GPT-4oに匹敵するとされる。標準的なタスクの64%では同規模のQwen-2.5-32B-Instructを上回る。[10]
- YandexGPT 5.1 Proは、社内の盲検ペア比較でYandexGPT 5 Proを58%、GPT-4.1を56%上回り、幻覚の割合を32%から16%へと約半減させたとされる。[12]
- ロシア語LLMをクラウドソーシングで評価するru-LLM Arena(llmarena.ru)でも各モデルが比較されている。[17]
ファインチューニング
YandexGPT 5 LiteではLoRAが公式にサポートされており、実行例がモデルカードに公開されている。AI Studioでも、LoRAによるモデルおよび分類器のファインチューニングが提供されている。[11][8]
マルチモーダル性
YandexGPT自体は主にテキスト生成モデルとして提供されてきた。一方で、2025年以降のYandex Cloud AI StudioおよびAlice AIでは、視覚言語モデル(VLM、2025年4月に提供開始)、画像生成のYandexARTおよびAlice AI ART、音声のSpeech Realtimeなど、マルチモーダルなモデルが統合されている。[8][3]
Alice AIへの統合
2025年10月、ヤンデックスはYandexGPTを中核とする消費者向けプロダクトを「Alice AI(Алиса AI)」へとリブランドした。チャットボット、音声アシスタント、AIエージェント作成プラットフォームが一つのブランドに統合され、文書(PDF・DOC・DOCX・TXT)の処理やカメラを使う「ライブモード」などが加わった。Alice AIファミリーには、テキストのAlice AI LLM、視覚・テキストのAlice AI VLM、画像生成のAlice AI ART(YandexARTベース)が含まれる。[13]
評価と限界
YandexGPTはロシア語のテキスト作成や要約で強みを示す一方、いくつかの限界も指摘されている。コード生成では、ベンチマーク上はGPT-4oに近い数値を出すものの、実際には動作しないコードを生成することが多いと報告されている。[15] 独立系の比較評価では、世界の主要モデルと比べて中位から下位に位置づけられ、十分に文書化された話題でも「最新のデータがない」として回答を拒むことがあるとされる。また、YandexGPT 5 ProがアリババのQwen-2.5を基盤としている点も注目された。[18][15]
外部リンク
- YandexGPT(Alice AI)公式ページ
- Yandex Cloud AI Studio ドキュメント
- AI Studio リリースノート(更新履歴の一次情報)
- Hugging Face上のYandexGPT 5 Lite
- GitHub上のYaLM-100Bリポジトリ
参考文献
- Matkin, N. et al. (2024). Comparative Analysis of Encoder-Based NER and Large Language Models for Skill Extraction from Russian Job Vacancies. arXiv:2407.19816.
- Tsanda, A.; Bruches, E. (2024). Russian-Language Multimodal Dataset for Automatic Summarization of Scientific Papers. arXiv:2405.07886.
- Goloburda, M. et al. (2025). Qorǵau: Evaluating LLM Safety in Kazakh-Russian Bilingual Contexts. arXiv:2502.13640.
- Togmanov, M. et al. (2025). KazMMLU: Evaluating Language Models on Kazakh, Russian, and Regional Knowledge of Kazakhstan. arXiv:2502.12829.
- Noels, S. et al. (2025). What Large Language Models Do Not Talk About: An Empirical Study of Moderation and Censorship Practices. arXiv:2504.03803.
脚注
- ↑ 1.0 1.1 «“Яндекс” добавил в “Алису” аналог ChatGPT». РБК. [1]
- ↑ «Getting started with YandexGPT (Quickstart)». Yandex Cloud Docs. [2]
- ↑ 3.00 3.01 3.02 3.03 3.04 3.05 3.06 3.07 3.08 3.09 3.10 «Common instance models». Yandex Cloud AI Studio Docs. [3]
- ↑ 4.0 4.1 4.2 «yandex/YaLM‑100B: Pretrained language model with 100B». GitHub. [4]
- ↑ «Яндекс представил второе поколение нейросети YandexGPT». iPhones.ru. [5]
- ↑ «“Яндекс” представил третье поколение нейросетей YandexGPT». РБК. [6]
- ↑ «Третье поколение моделей YandexGPT». Yandex Cloud Blog. [7]
- ↑ 8.00 8.01 8.02 8.03 8.04 8.05 8.06 8.07 8.08 8.09 «Yandex Cloud AI Studio release notes». Yandex Cloud AI Studio Docs. [8]
- ↑ «Более мощное семейство моделей YandexGPT 4». Habr. [9]
- ↑ 10.0 10.1 «“Яндекс” внедрил YandexGPT 5 Pro в чат с “Алисой Про”». AdIndex. [10]
- ↑ 11.0 11.1 11.2 «yandex/YandexGPT‑5‑Lite‑8B‑pretrain». Hugging Face. [11]
- ↑ 12.0 12.1 «Нейросеть YandexGPT». Яндекс. [12]
- ↑ 13.0 13.1 «YandexGPT: обзор, тарифы и как пользоваться в 2026 году». ai-journal.ru. [13]
- ↑ 14.0 14.1 14.2 «Встречаем YandexGPT 5 — в Алисе, облаке и опенсорсе». Habr. [14]
- ↑ 15.0 15.1 15.2 «Тестируем YandexGPT-5-Pro». Habr. [15]
- ↑ «Yandex Cloud AI Studio quotas and limits». Yandex Cloud AI Studio Docs. [16]
- ↑ «llmarena/llmarena — российская краудсорсинговая платформа оценки LLM». GitHub. [17]
- ↑ «YandexGPT in 2026: A Review of Russia's AI Platform for Business». mysummit.school. [18]